理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【コメント6】BPOによるNHKスペシャルへの人権侵害決定・勧告について

(注)以下は、コメント欄に書いたものを、記事化したものです。コメント欄だけでは足りないので、記述を追加しています。
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 決定についてのコメントの中に、例えば次の一文を引用して、決定も小保方氏を問題視しているのだ、ということを述べる向きもあります。
 
「申立人は、STAP論文2本の筆頭著者であり、同論文の内容について主たる責任を負う者の1人である。また、若山氏は自ら検証を行い、自らの疑惑に対して一定の説明を試みているのに対し、申立人は、当時の状況からして斟酌すべき点はあるが、納得のいく説明を行っていないとみられていたことも事実であろう。」p19
 
「断章取義」という四字熟語がありますが、こういう援用の仕方は、「断章取義」の典型であり、意味がありません。というより不適切です。
 決定全体としてどうなのか? 根幹部分は何でありどう評価されるのか?という話がないままに、決定文の前後の文脈を無視して数行だけを切り取って示して、こうだ、と論じても仕方がありません。本ブログに限らず、他ブログ等でもそういうコメントの仕方が目につきますので、事例研究の意味で書いておきます。論点の一つでもありますので、ちょうどいい機会です。
 
 冒頭の引用箇所は、次の論点に関する判断部分の一文です。
 
「5.その他の放送倫理上の問題について
(1)若山氏と申立人との間での取扱いの違いと公平性
ヒアリングで申立人が本件放送に関する問題点として強調した点の1つは、若山氏と申立人との取扱いが公平性を欠いているということであった。すなわち、STAP研究は若山研究室で行われたもので、研究室の責任者は若山氏であり、他方、申立人は研究室の一構成員にすぎず、若山氏の指示の下で研究に従事する立場であった。それにもかかわらず、本件放送では、疑惑の原因がもっぱら申立人にあるかのような放送がされたことが問題であるという主張である。」
 
 これに続いてBPOとしての判断要素について述べていますが、冒頭の一文の引用箇所の前には、次の一文があります。取扱いの不公平さに関する具体的事実関係です。


「確かに、本件放送は、若山氏の説明に沿って作られている面があり、例えば、後述する実験ノートの扱いについても、キメラ実験を担当した若山氏の実験ノートではなく、申立人の実験ノートを取り上げるなどしており、申立人に対し不公平感を与える面があるかもしれない。
 また、第2次調査報告書において、実験記録やオリジナルデータがないことや、見ただけで疑念が湧く図表があること、明らかに怪しいデータがあるのに、それを追求する実験を怠ったことなどについて、若山氏や笹井氏の責任は特に大きいとされている(別の箇所では、若山氏の責任は過失とはいえ極めて重大だともされている)。また、同報告書では申立人が若山氏の過剰な期待に応えようとして捏造を行った面も否定できないとされていることからも、客観的事実として、研究遂行過程において、若山氏と申立人との間には多かれ少なかれ上下関係があったものと思われる。」

 
 そして、冒頭の数行部分を、反対の勘案要素として述べたのち、結論として、
 
「放送局の有する番組編集の自由をも考慮すれば、本件放送の全体的な構成が放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない。」
 
 としています。
 BPOの仕組みは、番組編集の自由は尊重しなければならないという大前提があって、よほどひどい場合には、放送倫理上の問題が生じるものとして勧告を含む注意喚起をする、というものです。
そういう中で、上記の判断内容をきちんと読めば、小保方氏側が申し立てた不公平感については、BPOとしては、勘案すべき事情として是認したうえで、別途の事情として、「筆頭筆者であり、主たる責任を負う者の1人であること」、「納得のいく説明を行っていないとみられていたこと」(注:「納得のいく説明をしていないこと」ではありません。「~見られていたこと」は確かに事実でしょう。)という事実も踏まえて、総合勘案して、放送倫理違反「とまではいえない」と結論づけているという構成であることがわかります。
 
今回のBPO決定では、問題指摘のレベルにかなり段階があります。留意すべきは、放送倫理上の問題が認められなかったとしても、問題としては認められている論点も少なからずあるということです。
 
(例1)「小保方氏が、留学生のES細胞をSTAP細胞に混入した疑惑」の提示
 これについては、多数意見が「人権侵害」でしたが、コメント記事でも書きましたが、少数意見者も含めて、すべての委員が、極めて問題だとしています。
 
「人権侵害とまでは言えないが、放送倫理上の問題がある」(奥委員)
「不正確な放送で勇み足である。一部に過ぎないから、などと問題を小さく捉えるべきではない」(市川委員)
 
(例2)笹井氏-小保方氏間のメールの読み上げ
 この論点についても、最高裁判例に従って、あくまで「一般視聴者」の視線でみてどうなのか、という判断であるために、名誉棄損の人権侵害判断にまでは至りませんでしたが、「品位を欠く」「(週刊誌を読んでいる)一部の視聴者には誤解を与える」、更には「報道目的にとって必要不可欠とは言えない。」とまで指摘されています。
 
「確かに、本件放送に先立って一部の週刊誌が笹井氏と申立人との男女関係をうかがわせる記事を掲載しており、こうした記事の内容を知る視聴者は、本件放送でのメールの読み上げを聞いてそうした関係を想起するだろう。その点、科学報道番組としての品位を欠く表現方法であったとは言える。」
「・・・一部の視聴者に対しては誤解を与えるような紹介の方法であった点で配慮が十分でなかったものの、それを超えてプライバシーの侵害に当たるとか、放送倫理上問題があったとまでは言えない。」
 
「これについてNHKは、笹井氏が画像やグラフの作成に関して具体的な指示を出していたことを裏付けるものであり極めて重要なものであると主張する。しかし、読み上げられた上記のような内容は、確かに論文作成のための助言に関わる内容ではあるものの、具体的な指示とはいいがたく、報道目的にとって必要不可欠とは言えない。」
 
 要するに、「科学番組を標榜するにしては品位を欠くし、報道目的からして関係ないけれど、番組編集の自由もあるので、放送倫理上問題とまではBPOとしてはいえないね。」ということです。相当踏み込んだ、辛辣な批判になっていることがわかります。無罪放免では全くありません。
 
●以上のように、BPO決定については、全体として、そして各論点ごとに、どういう判断になっているのかを、よく読んで、「人権侵害」「放送倫理違反」の認定のあるなしだけで判断して、認定されなかったから、何らの問題もなかったとすることは、適切ではありません。
 
●逆に、今回のBPO決定を以て、「小保方氏がES細胞を混入したという疑惑が晴れた」とするのは正確ではありません。あくまで、
「小保方氏が留学生のES細胞を盗んだという提示された疑惑、及びそれを使ってSTAP細胞に混入したとの疑惑は、全く根拠なしとされたこと」
 ということです。それはそれで(後に石川氏の告発につながっていくことを考えれば)極めて大きな意義とインパクトのある決定だったですし、神戸地検の「事件の発生自体が疑わしい事案 」との不起訴処分時の説明とも相俟って、晴れて無罪認定になったと思いますが、「小保方氏が(留学生のではなく他の)ES細胞を混入した」という疑惑は、桂報告書やそれを踏まえたネイチャー誌掲載の論文などによって、(公式には認定されていないもの)依然として、世間には色濃く印象付けられています。
 この点は、BPO決定にかかわらず、更に解明していくことが必要です。