理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

マウス管理の大変さを語った山中教授のインタビューから感じたこと


 月刊誌で『WILL』というのがありますが、今月号(2月号)の特集で
「日本人よ、自信と希望を!」という、いかにもWILLらしい編集のものがあって、その中で、いろいろな人に語らせています。

 そのうちの一編が、iPS細胞の山中伸弥教授へのインタビュー記事です。
既にご存じの方は多いのかもしれませんが、こうやって話を聞くと、大変な苦労をしたんだな・・・ということがよくわかりますし、Historical If ではありませんが、どこかでちょっと何かが違っていたら、ああいう人生にはならなかったのだろう、ということをひしひしと感じるものでした。

 中・高で柔道、大学でラグビーをやり、骨折をするたびに整形外科に通っていたため、神戸大卒業後、整形外科の研修医として、国立大阪病院に勤務したものの、指導医が大変厳しく、邪魔なジャマナカといわれ続け、上手い人なら20分で終わる手術を2時間、3時間もかかってしまうほど、緊張による手術上の不器用さに思い悩んだことと、整形外科の明るいイメージと反して重い実態があり、臨床医から言わば逃げ出して、基礎研究の世界に入った。

 しかし、大阪市大の大学院を卒業後、ネイチャー誌やサイエンス誌の求人広告を見て、30通、40通と手当たり次第に応募したがなしのつぶて。ある日、グラッドストン研究所から電話があり、30分ほどのインタビューで採用が決まり、妻子とともに渡米した。
 ここでは、ES細胞研究をし、土日も実験で明け暮れた(ただし、週末の日中は家族との時間を大事にした)。

 こうして3年の研鑽を積んで帰国し、学術振興会の特別研究員に採用されて収入の目途はたったものの、1年もしないうちにPAD(ポスト・アメリカ・ディブレッション)というアメリカ後欝病という留学経験がある仲間内でいわれる病気にかかってしまった。
 それは、研究環境の圧倒的なギャップによる。研究費の潤沢さ、意見交換できる相手の豊富さ、分業化によるサポート体制の充実により、研究に集中できる米国に対して、日本では全部自分でやらなければならない。増えるマウスの飼育管理が大変でそれも自分でやらなければならず、研究者か飼育係かわからず、情けなくて泣けてきた。臨床に戻ろうかと思った。

 そんな時、1998年に、米国でヒトES細胞の作製に成功したというニュースに勇気づけられ、奈良先端科学技術大学院大学に主任研究者として採用されたことで、PADの病気は消えていった。
 奈良先端~大学は、素晴らしい研究環境で、30代で独立させてもらい、自分の研究グループも持たせてもらえた。弱小研究室だったが、皮膚細胞から万能細胞を作ると滔々と説明したら、学生3人が入ってきてくれて、そこからiPS細胞の研究が本格化した。・・・・

 というようなことが書いてあり、日本と米国との研究環境の大差についても縷々述べられています。米国は寄付文化が発達し、最先端の研究施設が次々と建設されていくが、日本は耐震補強が中心であり、iPS細胞研究所の新研究棟の建設などは例外的。それでも、非正規の研究員が9割という雇用環境で不安定・・・等々。

 大変印象深い記事でした。
 それで、そのことは前振りでして、この記事でちょっとひっかかったのが、マウスの飼育管理の話です。
 山中教授が、研究者か飼育係かわからないほどだと嘆いたマウスの飼育ですが、山中教授の言によれば、

アメリカから日本に帰国する際、マウスを3匹だけ連れて帰って来たのですが、「ねずみ算式」という言葉があるように、1年後にはそれが200匹になってしまったんです。その世話を全部、自分でやらなければならない。・・・」

 とのことです。
 こういう環境の中で、マウスの系統を正しく維持するというようなことは、物理的にきちんと担保できるものなのでしょうか?
 こんなねずみ算式に、次から次に増えていくというのでは、コンタミは往々にして起こり得るということはないのでしょうか?

 例の桂調査委への批判の文脈で、我田引水的に読んでいるわけではありませんが、前にも書いたように、理研のその系統の管理をしっかりして各研究施設にしかるべき遺伝子を持たせたマウスを供給するサービスを担っているはずの専門組織が、実はコンタミのあるマウスを供給していて大きな問題となったほどですから、理研のように他の組織よりは恵まれた研究環境といえども、通常の実験室であれば、コンタミは往々にして起こり得ると見た方がいいのではないのだろうか・・・という疑問がどうしても湧いてきます。

理研が誤った実験用マウスを41機関に提供、実験データが使えず研究に支障も
  2014/06/22 14:33:26 http://www.asahi.com
 
理化学研究所が国内外の研究機関の注文に応じて実験用マウスを提供している事業で、誤ったマウスが繰り返し提供されていたことがわかった。
41機関に注文とは異なる計178匹の遺伝子組み換えマウスが提供され、なかには実験データが使えず、研究に支障が出たケースもあった。
 正しい遺伝子組み換えマウスの提供は、iPS細胞などの再生医療研究を支える基盤となっており、ミスは研究の信頼性を損なう事態につながりかねない。
 誤ったマウスを提供していたのは、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)。約6900種類の組み換えマウスを管理・販売する国内最大の実験用マウス提供機関だ。
 センターは多様な組み換えマウスを開発者から預かって管理。研究機関はセンターが管理するマウスのカタログから実験に適したマウスを選び、繁殖用の種マウスとして数匹購入し、繁殖させて実験に用いる。


 しかし、桂報告書は、次のように、あっさりと、若山研のマウス管理に問題はない旨述べるのみで、コンタミの可能性は認めていません。


「マウスの系統管理も、系統間のコンタミネーションに対しては、部屋、あるいはラックを変えるなどの防止策は採られていた。」

 こういう疑問を改めて思い出させる山中教授のインタビューでの回顧談でした。