理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

笹井氏の証言(1)―須田記者『捏造の科学者』より

 
 毎日新聞の須田桃子記者による『捏造の科学者』は、以前書評でも書きましたが、
笹井氏、丹羽氏、若山氏ら、直接の当事者への取材に対する生の回答、証言をそのまま載せてくれている部分がかなりあり、貴重な一次資料となっています。これだけでも、他にはない高い価値があります。
 これまで、若山氏や丹羽氏の証言については、これまでのブログ記事の中で、テーマに応じて引用していますが、笹井氏の証言については、あまりまとまった形では紹介していなかったと思います。
 改めて読むと、節目の時に、どう考えていたのか、どう発言していたのかがよくわかりますので、少し局面を整理しながら、引用してみます。
 丹羽氏もそうでしたが、あの混乱の中でも、驚くほどに率直かつ能弁に語っているのは、極めて印象的です。


●小保方氏採用後のリジェクト論文改訂作業過程201212月―)
 
○「小保方氏が改訂を進めていた草稿だったが、その稚拙さに驚いた笹井氏は「火星人の論文かと思った」と関係者に伝えたという。」(p114
 
○「二○一三年二月一日、笹井氏は関係者へのメールで、小保方氏が弱酸性溶液に浸して刺激を与えたリンパ球の変化を顕微鏡下で録画する「ライブイメージング」を実施したことを報告。万能性に特有の遺伝子が活性化し、細胞が緑に光り始め、やがて塊を作っていく様を動画で目の当たりにした笹井氏はメールに「驚くほど高頻度に(変化する細胞が)出現し、感動的でした」と記したという。「彼がメールで『感動的」なんて言ったのは初めてだ」(関係者)。(p115
 
○「笹井氏は、二月上旬の合同取材と翌日の私への補足のメールで、STAP論文の採択に至る経緯を次のように説明している。
まず、小保方氏はCDBで若山氏と本格的に共同研究を始めてから、次のことに挑戦した。
①万能細胞らしき細胞の出現を解析可能なレベルまで効率化する
②キメラマウスを作製し、本当に万能性を持つことを証明する
「小保方さんと若山さんの凄まじい集中力(と意地)」により、CDBでの約一年間で①②をほぼ完了した。その内容をもとに、二○一二年春にネイチャーに論文を送ったが、「基本的に、信じてもらえないという反応」で不採択となった。キメラマウスの実験は完壁だったため、小保方氏いわく、「これ以上どうしてよいか分からない」という壁にぶつかった。
その後、西川氏や笹井氏、丹羽氏のアドバイスを受けるようになり、そこからは二つの点での挑戦をした。
③すでに体内に存在していた幹細胞ではなく、新しく初期化された幹細胞であることの証明
④STAPという現象が、アーティファクト(実験の手違いや他の現象の見間違えなど)で無いというだめ押し
この後の経過については、笹井氏からのメールをそのまま引用しよう。
「これ(③④)を、若山研以外のCDBの研究環境も最大限活かしながら、後半は私のラボでも実験しながら、二○一三年三月に全く新たに生まれ変わった論文に仕上げた訳です。
これは、一年前の論文の書き換えではなく、まったく一から書き直しました(こうした大きな論文をまとめる訓練を受けたことがなかったので、書き方は私が細かくご指導しましたが、論文の筋のアイデアはあくまで彼女自身のものです)。しかも、前回と違い、今回は二報分(※二本分)のネイチャーの論文としてです。これでもrejection(※不採択)から一年弱ですので、これまた小保方さんの研究集中力の凄まじさが判ると思います。もちろん、これは、CDBならではの研究環境が助けになったとは思います。
(中略)④は細かいことはいろいろありますが、大きな例で言えば、胎盤への分化能があることを見いだし、証明したことです。これはES細胞などのコンタミ(※混入)では絶対にあり得ず、STAPが極めて独自の現象であることを如実にしめしました。
二○一三年四月には、厳しいコメントや追加データの要求を受けながらも、なんとかrevise(※改訂)に入り、そこから二○一三年十二月のaccept(※採択)まで、山のようなreviseのための実験(もう二つくらい普通の論文がかけるほどの量)を、小保方さんは私や丹羽さんとも相談しながら、着実にこなして、三回のreviseを経て、acceptになっています。」(p116-118
 
 
201425日 笹井氏への各紙合同取材時の説明
「五日、神戸のCDBでは各社の科学記者を対象にした笹井氏への合同取材の機会があり、私も再び日帰り出張で参加した。
笹井氏は四時間以上にわたり、疲れも見せずに質問に答え続けた。「STAP細胞はまだよちよち歩きの技術で、技術的には百点満点の二十点。発表時点で八十点くらいのレベルだったiPS細胞と違い、STAP細胞で百点を目指すのはそれなりに時間がかかる」としながらも、「体細胞の性質を決める遺伝子の制御状態が、刺激によって自発的に解除される仕組みが解き明かせれば、似たような現象を体内で起こし、組織を再生できるようになるかもしれない。いわばヒトにイモリの再生能力を持たせるようなもので、二十点の技術を一万点にする新たな研究の水平線が見いだせたと言える」などと熱っぽい口調で語った。
CDBはこれまでにも、能力とアイデアを重視して若手の研究リーダーを積極的に採用してきたが、「目利きを徹底的にやる。失敗したらクビ」と笹井氏。小保方氏の採用を審査する二○一二年冬の人事委員会では、「この人なら積み上げ型の研究をきちっとやっていける、挑戦させたい」と感じたという。
経験の浅い若手リーダーにはシニアの研究者二人をメンター(助言役)としてつけるなど、
手厚い支援体制があることも紹介した。国の基礎研究向けの資金が年々縮小され、応用に向けた研究でないと大型資金を独得できない現状や、比較的柔軟に使え、STAP研究の資金にもなった運営費交付金が、CDBではこの十年で半減したなどの現状も訴えた。」(p35-36
 

201436日の疑念報道の直後の取材への回答
「その後、笹井氏からも返信があった。
――STAP細胞からSTAP幹細胞への変化は、今の技術ではやや起こりにくい。「若山さんが樹立した数株には」TCR再構成が確認されなかったが、それは母数が少ないため偶然だったのかもしれないし、あるいは分化しきったT細胞由来のSTAP細胞は、STAP幹細胞になりにくいのかもしれない-―という内容だった。
私は翌日、笹井氏に重ねてメールで質問した。
―STAP幹細胞は「若山さんが樹立」したとあるが、それは論文やプロトコルに載っている八株のことか。また、論文では「CD45」というたんぱく質を目印にリンパ球を分離しているが、よく調べると、CD45が含まれる細胞には、リンパ球以外の細胞もあるようだ、実際に実験に使ったのは、具体的にどんな種類の細胞なのか――。
笹井氏の返信は、冒頭に「私も鬼の濯乱で、ついに今日の午後には寝込んでしまいました。風邪を移された感じです。すいませんが、ごく簡単に」とあり、いつもより短かった。
一つ目の質問への回答はあいまいだった。
「TCRの解析は伝聞なので、どの株に対応するのかは聞いていませんし、どのくらい確証があるのかは見ていません。多分、論文と同じ株だと思いますが、そのすべてを解析したのか、そのうち数株なのかは、すいませんが存じません。ただ、一〜二株ではないようです。」
 (中略)
二つ目の質問への回答は、次のような内容だった。
――私は血液学者ではないので、細かい例外は知らないが、CD45が含まれる血液細胞は、いわゆる白血球の多くのタイプにあたり、その中には未分化な幹細胞もあれば、分化した細胞もあるはずだ。西川伸一氏によると、今回の実験で使ったような脾臓から採取した血液細胞の場合は、CD45が含まれる細胞のほとんどがリンパ球であることが知られている。今回の実験では、CD45を指標に細胞を分離する前に、比重の差を用いてリンパ球系の細胞を遠心分離する方法も用いている。また、CD45で分離した細胞の中でも、未分化な幹細胞はむしろSTAP細胞になりにくいことが観察されている――。
体の中には、ES細胞やiPS細胞ほどの多能性はないが、さまざまな種類の細胞に分化する「体性幹細胞」が存在する。血液中の幹細胞(造血幹細胞)もその一つだ。
 
「こうした実験背景の把握をきちんとしてくださる態度に敬服いたしております。
ネイチャーはやはり、誌面の制約が厳しく、(※米科学誌)セルほど詳しく書けないのも、読み手の解釈の幅をつくって憶測を拡げるものになっているのかもしれません。(中略)
ただ、いろいろな細胞が存在するリンパ球では、こうした解析に限界もあるので、他の組織で、もっと均一な細胞からスタートさせて実証する実験を進めたいと思っております(ただ、こうした騒ぎが収まらないと、こうした腰を落ち着けた実験が始められずに、小保方さんもフラストレーションが溜まるだろうと、心配しております)。
科学で「実証」をするということは、ネイチャーに論文を出すことではなく、そこから始まる過程であるのが常です。
どのように、この実証が取られるか、是非、その視点から注目してみてくださればと思います。わたしもそれがどう進むか、内心、楽しみながら、参加しています。(中略)それなりの時間はかかるでしょうし、それに早く集中させてあげたいと思います。今後ともよろしくフォローください。」」
p61-64