小保方研究室が設置されたのは、若山研引っ越しから7カ月後だったことからの想像
今回は、小保方研究室が物理的に設置された時期に関連しての話です。
これは、2014年6月の自己点検検証委の報告書の抜粋ですが、
「(3)小保方氏のCDBのPI応募時から論文投稿時までの経緯」(参考資料P76)のところに、次のように書かれています。
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⑥2013年3月1日、小保方氏がRULに着任した。小保方研究室の工事が同年10月末に完了するまでに、小保方氏は主に笹井研究室のスペースで研究を続けた。小保方研究室に専任のスタッフが配属されたのは2014年1月からである。
⑦2013年3月10日、小保方RULを筆頭筆者とする2編の論文がネイチャー誌に投稿された。
⑧2013年3月31日、2012年3月末に山梨大学に転出し、その後2012年度末までCDBの非常勤チームリーダー(TL)を務めていた若山氏の非常勤TLの任期が終了した。若山氏の実験室は山梨大に移った。
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【小保方研究室が物理的に用意されたのは、若山研引っ越し後7カ月後だった】
何となく漠然と、若山研が山梨大に転出した後に、すぐに小保方研のスペースができて、そこを拠点に笹井研にも通った、という印象を持っていたのですが、そうではなく、実に7ヶ月間は小保方研は準備工事中で、笹井研究室に間借りしていたということですね。
週刊ポストの記事では、次のようにあります。
「小保方氏は2011年4月から2013年2月まで若山研の客員研究員として自由に研究室に出入りし、ES細胞を手にできる立場にあったという。
「小保方さんの研究室から見つかったES細胞は、若山研にいた中国人留学生が作成、凍結しておいたもの。若山研が理研から山梨大学に引っ越したときに紛失が発覚し、留学生は研究を継続できなくなったそうです」(石川氏)
石川氏らは、若山研が山梨大に移るどさくさに紛れて、小保方氏がES細胞を盗んだかのように述べていました。しかし、小保方研は物理的には、若山研移転後7ヶ月間、物理的(スペース的)にはなかったということであれば、あの冷凍庫やES細胞は、笹井研におかれていたということでしょうか? それとも、別のところに保管されていたのでしょうか?
笹井研におかれていたのだとすると、多くの室員の目に触れていたでしょうから、中身はともかくとして、冷凍庫自体の存在は広く認識されていたはずです。第一、それを笹井研に物理的に移したのは理研の備品を管理する備品係でしょう。別のところに保管されていた場合も、同様に理研の物品係の管理の下にあったことになります。普通に想像すれば、小保方氏が研究試料について冷凍保管する場所がなければ困りますから、笹井研におかれていたとするのが常識的です。そして、小保方研の工事が完了したところで、そちらに移ったということではないのでしょうか。
いずれにしても、冷凍庫は理研の備品であり、備品管理担当によって管理され、正規に認められた研究室にしかるべく置いてあった以上、冷凍庫自体については、窃盗もなにも論じる余地はありません。
当初、小保方研で見つかったというものが、ES細胞(のチューブ)に限定されているのか、冷凍庫も含めてなのかよくわかりませんでした。これは、私の理解不足にすぎないのかもしれませんが、用語として、「チューブ」「試験管」「ボックス」「貯蔵庫」「冷凍庫」等が入り乱れて使われていて、特に「ボックス」と「冷凍庫」(「貯蔵庫」)との峻別がよくわからなくて混乱したことによります。冷凍庫の中に、(留学生の)ES細胞単品チューブがあり、更に別途のES細胞の入った「ボックス」があったということのようですね。
ただ、石川氏が窃盗での告発対象にしているのは、ES細胞の個別のチューブなのか、それ以外のES細胞が入ったボックスも含めてなのかがよくわかりません。前記の週刊ポストやフライデーの記事をみると、その双方のような気もしますが。そのどちらかによって、また捜査の対象も違ってくるような気がします。
【「留学生」は研究継続を断念するくらい重要な試料なら必死に探すはずなのに、その形跡なし?】
他方、「窃盗」として告発が受理されたということは、その占有・所有を主張している者がいなければおかしな話ですが、それを主張する者としては、NHKが報じた留学生しか見当たりません。他の関係者である理研、若山氏、大田氏などは、知らないということです。マスコミで報じられているように、その留学生がそのES細胞がないことに気がつき、若山研でもないことに気がつき、研究の継続を断念せざるを得ないという瀬戸際だ、ということであれば、もっと必死に探すでしょう。あるとすれば、若山研で使っていた冷凍庫か、小保方氏が間借りしていた笹井研の冷凍庫しかないわけですから、理研の備品係に「もともとはあの冷凍庫にあったはずだが、今どこにあるか? チェックしてみてくれないか?」と照会して調べてもらえば容易に発見できたのではないかと思いますが、そういう初動動作をしていないように見受けられるのは、大きな違和感があるところです。
それにその留学生は、そもそも、自分が保管していたはずのES細胞のチューブにどのように記載し、どこに入れておいたのでしょうか? 引っ越しするつもりなら、当然分かるように書いていたかと思います。
更にそもそも論をいえば、若山研が山梨大に引っ越すときに、物理的にどういう物に入れられてどういう形で運ばれたのか? また、細胞チューブ1本といえども備品でしょうから、移管手続きの対象となったものが正しく引っ越し作業の中に含まれていることの点検等は誰がどういう形で行ったのでしょうか? 若山研の冷凍庫から、研究者各自が「自分のものは取り出すように。時期が過ぎたら処分する」と若山氏に言われて取り出して、それを引っ越しまでどこに保管しておいたのでしょう?
以前の週刊新潮の記事で、「小保方研の冷凍庫等を理研当局が保全し、その中身の細胞を逐一リストアップして若山研に送ったら、若山研に引っ越されるはずだった80もの細胞がそこにあったので驚いた」という趣旨の記述がありましたが、引っ越し時、引っ越し後山梨大受け入れ時に、そういうチェックは理研、山梨大ともにしていなかったということでしょうか? 引っ越しから1年以上経ってから、理研からリストを送られてその不存在に驚く、という若山氏側も随分間が抜けているというか、杜撰な話ですが、本当にそういうことなのか、基本的事実関係もわかりません(どこかで報じられていましたでしょうか?)。
【小保方氏は、小保方研に設置された冷凍庫の中身をチェックする時間的余裕はなかったはず】
そして、2014年1月から、小保方研に専任スタッフが配属されたとありますが、そのスタッフは、冷凍庫の存在を当然認識していますし、中身を見ていないはずがありません、そこに、『若山研totalRNA』と書かれたボックスがあったのだとすれば、当然気がつくでしょう。それでも何もなかったということは、逆に言うと、気がついて何も不思議に思わないという状況だったということでしょう。上記の週刊ポストの記事でも、理研関係者がそのボックスの存在に気が付いて、何か問題視したかというとそういう様子もありません。週刊新潮の記事では、理研が小保方研の冷凍庫内の試料を逐一リストアップして若山氏側に送ったら驚かれたとのことですが、その点についてどう理研当局は判断したのか、何かアクションを起こしたのかも不明です。
そうやって細かい事実をつなげて想像力を働かせれば、冷凍庫は若山研から小保方研に理研の備品として移り、若山研時代の研究員のジャンク細胞等があれこれ入ったまま譲渡され、小保方氏自身も、その中身をよく把握していなかったということだろうという気がします。若山研移転後、小保方研のスペースが設置されるまでの間は(2014年4月-10月末)、ネイチャー誌への投稿論文の補強、訂正等の作業で忙殺されていた時期ですから、冷凍庫の中身など詳細にチェックできる余裕もなかったはずですし、その必然性もありませんでした。その後も、例のネイチャー掲載と発表の騒ぎで、設置された冷凍庫の中身などチェックする余地もなかったでしょう。
小保方氏が、「冷凍庫の中身について、自分のものだとサインしている」と報じられていて、それは騒ぎが始まって以降の2014年3~4月頃の話かと思いますが、一括丸ごと、若山研から引き継いだ,譲渡されたという理解であるならば、サインして当たり前です。
保存されていたSTAP幹細胞との関係では、大田氏作成の岡部研由来のES細胞と一致ということになっていますが、そうすると、この留学生の「なくなったES細胞」云々という話は、何だったんだ?ということになります。NHKの報道や石川氏の告発における「留学生の作成したES細胞を使って不正を働いたのだ」というストーリーは、宙に浮いてしまっています。
「若山研引っ越しのどさくさに盗んだ」という時期と、小保方氏と若山氏とがキメラマウス作成に成功した実験時期とは,全く時期が合いませんから、「盗んだES細胞でSTAP細胞に偽装した、混入させた」というストーリーは成り立ちようがないことは、各種ブログ等で指摘されているとおりです(大田氏作成のES細胞というのは、『若山研totalRNA』と書かれたボックスに入っていたということでしょうか?)。
①小保方研に、あるはずのないES細胞があった。留学生のもので引っ越しの際にどさくさで紛失したものだった、という報道(ボックスの写真も含む)
②若山研にいたマウスからは絶対にできないとした若山氏依頼による「第三者機関」放医研の分析結果
③トリソミーの状況からマウスは生まれてこないはずであり、STAP細胞はES細胞(とTS細胞の混合)だとした、遠藤氏の分析結果
のすべてについて、特ダネ的に報道をしてきました。
しかし、それらはことごとく、関係なかったか、間違っていたか、疑念が呈されていたかのいずれかであり、それらを他に先んじて流し、世間一般の印象形成に多大な役割を果たしたことは、罪深いものがあります。
リークの際には、「遠藤氏の分析によるSTAP細胞否定は無理がある」とする外部有識者の報告は隠し、小保方研が物理的にできた時期やキメラマウス作成実験がなされた時期とのギャップなども曖昧にし、ひたすら小保方、STAP否定のための材料として流し続けていたように感じられます。
ともかく、一連の報道は、基本的な5W1Hに関する事実関係を明らかにしないまま、断片的に報じている感があります。自己点検委やモニタリング委の報告書の参考資料をみて、初めて気がつくことも少なからずありますが、理研当局もそれらに積極的には触れないままでした。
真実は細部に宿る
といいますが、こうやってわかってくる細かい事実関係から想像すると、どうも話はそう単純ではなさそうだ、という気がやはりしてきます。
今回の刑事告発受理に伴う捜査の一環で、少なくとも基本的事実関係の流れが把握され、多少なりとも真相究明につながる材料が出てくることを期待したいものです。