理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

3 若山氏の唐突な論文撤回呼び掛けの背景-③焦りと恐怖とが極限にまで高まる経過を示す須田氏インタビュー

 若山氏の焦りと恐怖とから解放された安堵感は、直後の311日のインタビューの次の正直な(正直すぎる?)発言が、如実に物語っていると思います。
 
「著者の責任逃れのようで申し訳ないけれど、正直、もうここまで来てしまうと、STAPから手を引きたいという気持ちもあります。撤回呼びかけを発表したあとで、ラボのメンバー全員が良かったと思っているのは、もう再現実験をしないで済むということなんです。再現できなかったら世界中から非難されると、ずっとプレッシャーを感じていましたから……。とりあえず実験をストップできるということで、すごく気が楽になったんです」
p77
 
 この「解放感」を得た以上は、もう「手を引く」ための材料を集め発信していく、という雰囲気です。この「正直、手を引きたい」と吐露したインタビューでの中で、一気に、STAP細胞全否定に近いところまで述べています。自らが、マウスからの一からのSTAP細胞作製~STAP幹細胞作製に成功しているにも拘らず、また小保方氏のSTAP細胞の受精卵への注入の一連の経過を自らの目で観察し、テラト―マをオーバーライドする万能性の証拠であるキメラマウスに成功しているにも拘らず、です。
 
 
2014311日】
「では、若山氏は今も、STAP細胞の存在を信じているのだろうか。「丹羽先生は信じているようですが」と水を向けると、若山氏は率直に答えてくれた。
「(刺激によって)細胞が変化するというところまでは正しいけれど、そこから論文で定義されているようなSTAP細胞になるというところまでは、もう信用できないんです」
論文によれば、STAP細胞は、万能細胞に共通する「Oct4」などの遺伝子が高いレベルで働き、さらにテラトーマを形成したり、キメラマウスを作製したりできる細胞だ。だが、若山氏が山梨大学でこれまでに実施した再現実験では、Oct4がほんの少し働くだけだったという。そして今回、博士論文との画像の酷似によって、テラトーマが本当にできていたのかが揺らいでいる――。
そうした状況を思えば、若山氏の見解は当然に思えたが、同時に衝撃的でもあった。論文発表の華々しい記者会見から、まだ二カ月と経っていないのである。
しかし、もしSTAP細胞が存在しないのだとしたら、胎盤にまで分化するキメラマウスの作製実験とは何だったのか。前日の電話取材のときと同様に、やはりその点が最大の疑問だった。
私はまず、CDB時代の若山研究室で、STAP細胞の代わりになるようなマウスのES細胞を入手可能だったのかを尋ねた。
「僕の研究室では、ES細胞は常に冷凍庫にいっぱい保管されています。鍵もかかっているわけではなく、二十四時間、研究室にはいつでも入れます」
(中略)
STAP細胞の最大の特徴である、胎盤に分化する能力はどうか。
「初期の頃のES細胞は胎盤にいかないとされていたけれど、今は技術も向上して、より質の良いESができます。特に僕の研究室は、キメリズムを高めるのが研究室のテーマの一つでもあったので、もしかしたらESでも胎盤にけつこう寄与しているかもしれないですよね」(p76-77
 
 この「再現できなかったら世界中から非難されると、ずっとプレッシャーを感じていました」と吐露した気持ちは、6月上旬の須田氏のインタビューで、より正直に語られています。時間の経過とともに、焦りが募っていく様子がこちらにも伝わってきます。
 
2014年「6月上旬」】
「この日の夜、甲府市山梨大学に若山氏を訪ねた。すでに遅い時間だったが、研究室にはまだ他のメンバーもいた。
若山氏の表情は思いの外、硬かった。実際に話をしてみて、事前に掴んでいたSTAP幹細胞の主要な解析結果を認めたうえで再調査開始に向けたコメントをしてほしい、という私の願いは、到底、実現不可能だと悟った。
内心落胆したが、考えてみれば無理もない。二月以降、若山氏が情報発信するたびに理研などからさまざまな圧力を受け、記事に少しコメントが載るだけでも「おとがめ」を受けるという状況だったことは複数の関係者から聞いていた。そもそも、この緊迫した時期に直接会ってくれたことだけでも、感謝すべきことなのかもしれなかった。
(中略)
まず、CDBの全画像調査であり得ないような疑義が出ていることを踏まえて聞いた。「現時点では、STAP論文はどこまでが真実のデータだと思っていますか」。
若山氏は疲れた顔に苦笑を浮かべた。
「あの……いろいろ僕の関係していないところも含めた新たな疑義を見る限り、もう信じられるデータは一個もないくらいの気がします」
では、STAP細胞についてはどうか。若山氏は言いよどんだ後、こう答えた。
「……結局、STAP幹細胞を作れるほどのすごいSTAP細胞は存在しないと思います。
ただ、酸性処理で何らかの変化が起こるというのは正しいと思う」
若山氏によると、若山研究室で実施した再現実験では、リンパ球を弱酸性溶液に浸してから培養を続けるうちに、「死にかけるけど生き返って変なものになる細胞」もあったという。
「その変化が、多能性を持つような変化かもしれないとは、もう思っていらっしゃらないんですね?」
思っていません。多能性を確認できて、初めてSTAP細胞と呼べる。うちでは何らかの変化は起こせたけれど、どうやってもその先にはいかなかった。STAPという現象は全く再現できず、世界でも再現できていないわけです」
正確に言えば、若山氏は一度だけ、STAP細胞作製に成功している。山梨大学に研究室を完全に移す前の二○一三年春、小保方氏に直接教わりながら作製し、できたSTAP細胞からSTAP幹細胞も樹立できた。ところが、山梨大学に移ってからは一度もできていない。再現実験には、二○一四年三月に論文撤回を呼びかける直前まで取り組み、回数は数十回に及んだという。
「何回試してもできない。小保方さんが使っている培地を送ってほしい」――。二○一三年六月頃、若山氏は小保方氏に、メールで依頼したという。培地とは、細胞を培養する際に培養皿に入れる、いわば細胞のベッドにあたる試薬だ。若山氏は、自分で用意した培地を使っていたが、生きた細胞を扱う実験では、ちょっとした条件の違いが結果を左右することはままある。小保方氏の培地ならひょっとして・・・と、若山氏は期待したのだった。
約一ヵ月後に小保方氏から培地が届いたが、それを使っても失敗した。思いあまった若山氏は、小保方氏に何度か状況を伝えた上で、改めて作製方法を教えてもらえないか頼んだが、「前に伝えた通り」と言われるばかりだったという。
「論文を投稿してからだんだんアクセプト(受理)が近づくにつれ、それまでに再現しないといけないという焦りが強くなってきた」。若山氏は、ひたすら実験を繰り返した日々の心境をそう振り返った。
「共著者として責任があるし、僕らは特に再現を重視する研究室なのに、再現できないというのはやっぱり恥ずかしい。だからアクセプトまでには再現したい。実際にアクセプトされパブリッシュ(発行)もされたら、なおさら再現しなきゃいけないというので、ずっと、焦りだけが強くなっていったわけです」
だが、論文発表後も、相変わらず失敗が続いた。「簡単だなんて発表しているのに」と、若山氏の焦りと不安は一層高まったという。
若山氏は、一月末の記者会見終了後、笹井氏にも「山梨ではできない」と話した。笹井氏は「小保方さんだってしょっちゅう失敗するから、再現は難しいのはあるんだね」と応じたという。笹井氏に若山氏の不安が伝わった様子はなかったが、若山氏自身には、「一番上手いはずの小保方さんですら再現できていないのか」と、少しほっとする気持ちもあったという。」
(p239-242)
 
 若山氏の身になってみれば、その焦りと手を引きたいという気持ちはよく理解できます。もともと、受精卵に細胞を注入する手技に期待されて「共同研究」に加わっただけなのに、笹井氏の再構成した論文の詳細もよくわからなくなってきて、著者からおりたいと申し出たものの慰留されて、ずるずると来てしまった・・・。理研発表でスポットライトを浴びて気を取り直したものの、しかしすぐにネットで問題指摘が出始めて、それでも再現ができない。キメラマウスになって初めて万能性が確認され、それがネイチャー誌の表紙を飾ったのに、それが再現できないとなると、その責めは、あのキメラマウス作製を担当した自分に向けられる・・・。
 その焦りと恐怖とは、3月に入ってから極限にまで高まっていったことでしょう。そこに、プロトコル公開でSTAP幹細胞ではTCR再構成がみられないという「疑念」が一気に高まり、更に、テラト―マ写真の件が浮上し・・・というところで、手を引く材料が出現した!ということで、一気に撤回呼び掛け-著者間の調整未了のまま公表、というところまで行ったということかと思います。
 
 そういう焦りと恐怖とはよく理解できるものではありますし、受精卵への細胞注入の精密作業ができるという手技を持っていたことで、騒動に巻き込まれてしまったという、ある意味「被害者」的心情も理解はできます。手を引きたいと思うのも当然でしょう。
 ただしかし、それでも、2月時点で自らが語っていた、一連のSTAP細胞の存在を前提としなければ説明できない材料、ES細胞とは明らかに異なる現象、そして自らが一気通貫でマウスから始めてSTAP幹細胞成功まで至った経験は、厳然とあるわけですので、それらについて、健忘症にかかったかのように一切触れなくなり、「あれはES細胞だったのだ」「光っていたのは胎盤ではなく卵黄嚢だよ」と言われても、「真実が明らかになった」として、一切口を閉ざしてしまうというのもまた、極端な気がします。
 ただ、こういう経過だと、あれだけの証言を残してくれていることを以て、今は良しとすべきなのかもしれませんが・・・。
 
 若山氏が世界の逸材であることに、何ら変わりはありませんし、その知見と手技を使って新しい発見で世界への寄与をしてほしいということにも変わりはありません。
 いずれ、小保方氏らによるSTAP細胞再現がなされることになった時点で、またいろいろと変化も生まれてくることでしょう。

【補足】
 なお、焦りと恐怖の底には、もうひとつの要因――「もしかしたら・・・コンタミのマウスを渡してしまったのかもしれない」という手交ミスも、まったく頭をよぎらなかったということはないと思います。
 実際、小保方氏のSTAP細胞からキメラ作成に成功したときに、マウスの取り違えの可能性も頭をよぎって、ぬか喜びさせているのではないか考えた旨、語っていますから。