理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 若山氏の唐突な論文撤回呼び掛けの背景-①若山氏が小保方氏を全面擁護していた頃・・・

毎日新聞の須田記者の『捏造の科学者』には、笹井、丹羽、若山、西川の各氏ら関係者のインタビューや取材記録が掲載されていますが、興味深い発言が多々あります。
 既に、丹羽氏や西川氏のインタビュー、取材での貴重な見方、意見についてはご紹介してありますが、若山氏の発言についても興味深いものがあります。周知の通り、若山氏は、STAP幹細胞、キメラマウス作製等の中核的実験を行いながらも、論文の撤回を呼び掛けた論文著者の一人ですが、論文撤回呼びかけの前後とで、当然のことながら発言ぶりも異なります。
 しかし、論文撤回呼びかけ後であっても、STAP細胞の科学的真実の追求に資する発言(受精卵へのSTAP細胞注入時の状況観察等)は消えるものではありませんし、今でも効力を有しています。
  
その時点での、STAP細胞の存在を積極的に支持する材料を提示していたにも関わらず、そして、論文の画像の取り違えについて、あの状況ではあり得ることだと擁護していたにも関わらず、論文撤回の呼びかけに至った「心境の変化」?がどういうものだったのかは今でも知りたいところです。
須田記者の本での若山氏へのインタビューを読んでいくと、その辺の様子が垣間見れるような気がしました。
 
それで、まず、若山氏が、論文の画像の問題について、小保方氏を擁護していた時期のインタビュー内容を転載します。画像の取り違えの背景の一端が分かります、若山氏のSTAP細胞の存在についての強気ぶりもまた、興味深いものがあります。
 
 以下の須田記者のインタビューは、2月下旬となっていますが、ニコニコ動画で、須田記者と竹内氏、中込氏が出演した翌日とありますので、2014224日に山梨大学の若山研において行われたものかと思います(p48-52)。
 
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「翌日(注:224日)の午後、私はJR甲府駅から山梨大学へと続く一本道を歩いていた。STAP論文の主要著者の一人、若山氏に会うためである。国内の他の著者が取材応じない中、若山氏だけが、国内外のメディアの幾つかの記事に登場していた。
歩道のあちこちにまだ雪がたっぷりと積もっている。元々は二月中旬にとっていたアポが、一メートルを越す積雪に阻まれ、一週間後に延期になってしまった。さらに悪いことに、理研はその間に、これ以上画像の疑義に関する取材に応じないよう、若山氏に〃口止め〃をしたらしい。若山氏に頼み込み、「調査結果が出るまでは記事にしない」という条件で何とか話を聞けることになった。
 
【画像の取り違えについて】
私はまず、二件の画像の疑義について尋ねた。若山氏によると、使い回しが指摘されているマウスの胎盤の画像は、若山氏が撮影し、元データは、顕微鏡付属のパソコンに保存されている。片方は正しく、もう一方は「明らかな間違い」だが、セットで掲載されている別の画像に問題はなく、間違いの画像を消してもこの図で示すべき内容に影響はないという。
若山氏は当時、マウス実験をしてサンプルの撮影を終えると、その日のうちにデータをUSBメモリに移し、小保方氏に内容を説明して渡していたという。論氏文の図の作成には関わっていないといい、間違いが起こった理由をこう推測した。
「彼女自身の実験ノートと画像フォルダーの日付を照合すれば、どの実験の画像か分かるはずだが、大量のデータを扱っており、彼女が自分で撮った画像でもないので、論文の編集途中でごちゃごちゃになった可能性はある。画像は論文に掲載されたものだけで百枚以上、保存したものは何千枚にもなるうえに、一つの図の中に、複数の作成者の画像や図が混じっている。投稿を重ねる過程で、全体の構成の大きな変更も何度かあったし、各図の内容やレイアウトの変更も何度もあった。図はそのたびにゼロから作り直すのではなく、元の草稿から配置しなおしていたと思うので、どこかで間違ったのではないか」
若山氏の実験ノートとパソコンは山梨大学にあり、照合は可能だが、その作業はまだしておらず、理研からも求められていないという。これを聞いて、内心「理研も随分悠長だな」と感じた。
 
電気泳動の「切り張り」について】
電気泳動の図の「切り張り」についてはどうか。若山氏は、「私が撮った画像ではないので分からない」と断った上で、こう釈明した。
「切り張りしたと指摘されている真ん中のレーンは、(比較対象となる)コントロールのデータ。生データでは離れていたレーンにあったか、間に関係ないレーンが挟まっていたのだろうが、右隣のOct4陽性細胞(STAP細胞)と比較しやすいよう、ここに持ってきたのではないか。一般には貼り付けてはいけないが、物差し(コントロール)の位置をずらしただけなのだとしたら、大きな問題ではない。むしろ、移動させたことが分かるように、白い線でも入れておけばよかった。大事なのは右隣(STAP細胞)のレーンなので、この図で示したい内容にも影響はない」
まとめると、二つの疑義は事実だが単純ミスであり、深刻な問題ではないという見解だ。
「最終チェックをすべきだったという意味では僕にも責任はあるが、実際、図の作成には関わっていなかったのでどうすることもできない」
 
【再現性について】
ネイチャーの記事にあった通り、CDBを去る前の二○一三年春、小保方氏から直接、作製方法を習ったときはSTAP細胞ができたが、山梨大学では成功していないという。「酸性処理が難しい。全滅するかほとんど死なないかのどちらかになってしまう」。
国内外で追試の成功例がなく、STAP細胞の存在そのものを疑う声もあることに触れると、若山氏の表情は意外にも少し明るくなった。
「今のような状況は予想していたし、それが研究の世界の楽しいところというか、後になれば楽しい記憶になると思う。今は画像のことで余計なストレスがかかっているが、再現性に関しては堂々と戦えばいい。iPS細胞は例外だが、すべての新しい発見はその後一年くらい誰も再現できなくて騒がれるのが当たり前。理研も簡単だと言い過ぎたが、今できないと騒いでいるのは、技術力というものを甘くみている連中だと思う。小保方さんが五年かけてたどりついた成果に二〜三週間で追いつけるわけがない
確かに、哺乳類初の体細胞クローン動物である羊のドリーも、若山氏が発表から約一年半後に体細胞クローンマウスを誕生させるまでは、提造疑惑がささやかれた。「クローンマウスも誰も再現できずに疑われたが、僕は世界中の研究室に呼ばれるままに出掛けていって、目の前でやってみせて教えた。その代わり研究のアドバンテージは失ってしまったけれど」。
 
【小保方氏の近況、STAP細胞の将来可能性について】
小保方氏からは、十日ほど前に「ご迷惑をかけて申し訳ない」と涙声の電話があったほかは、連絡がとれず、メールの返信もないという。
「小保方さんは今後、どうなるのでしょうね」と聞くと、若山氏は再び表情を曇らせた。
「厳密性を重んじる理研でこういう問題を起こしてしまったわけだから、周囲の研究者からの目は厳しいだろう。最初のフィーバーの時点でもかなり参っていたところへ画像の問題が起きて、ダメージは大きいのでは。研究自体を止めてしまうのではないかと心配している。彼女のためにも事実関係を早く明らかにして本筋の研究に戻れればと思って取材に応えてきたが、ちょっと裏目に出てしまいました…・・・」
約二時間にわたる取材の後半は、STAP研究の経緯や、今後の展望に話題を移した。作製方法をさらに改善し、より質の高い、受精卵そのもののようなSTAP細胞を作ることができれば、受精卵の代わりにSTAP細胞のみを子宮に移植し、子を産ませることができるかもしれない。実現すれば、優良な家畜を増やすなど、畜産業にも応用できるl・若山氏はそんな夢を語った。聞いている私の胸にも、論文発表時のワクワク感がつかの間よみがえった。しかし、若山氏とSTAP研究の将来性を語り合ったのは、それが最初で最後となった。」
 
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 こうやって、改めて若山氏のインタビューをよく読むと、いくつか感じる点があります。
 
第一に、若山氏が撮影した胎盤画像に関しての発言です。若山氏自身が胎盤自体を見ていた、ということを改めて感じます。若山氏が胎盤画像を撮影したことについては、昨年313日付の第一次不正調査委の中間報告でも書かれていましたし、第二次の桂調査委報告書でも、若山氏からオリジナル画像と実験ノートの提出を受けて調べた旨書かれていますから、今更かもしれません。しかし、これまでの「捏造疑惑」の議論の中では、胎盤が光っているのを確認したのは小保方氏であるという構図が強く印象付けられていたような気がします。
 
「小保方氏がSTAP細胞からのキメラの胎盤の切片を確認するに際し、若山氏はコントロールとしてES細胞からできたそれを渡したが、若山氏自身は切片を見ていない。だから胎盤が光っているのを直接確認したのは、小保方氏である。小保方氏が切片をTS細胞のそれとすり替えたに違いない。」
 
 切片に関しては、丹羽氏が、「自分の眼で、TS細胞等他の細胞とは明らかに違うパターンで、然るべき手法により、光っていることを確認した」と証言していますから、切片の捏造はあり得ない話です。その切片は、桂調査委は調べなかった(おそらく、理研に帰属しないので、調べることができなかった)・・・。
 胎盤本体についても、光っている様子は、研究室の誰もが「おおっ!」と驚いたというわけであり、
若山氏自身も、自ら撮影していながら、同じように驚きの思いを以て見たのではないのでしょうか。若山氏が論文撤回を提案した後になって可能性を示唆した「キメリズムの強いES細胞」からのキメラマウスとの違いは、それまで重点研究分野として研究してきたわけですから、すぐに分かるはずです。
 それにも拘らず、「あれは、胎盤じゃなくて卵黄嚢だったのだよ、誤認していたんだよ」と桂調査委に言われて、その眼力を否定されたのですから、本当は全く不本意なはずです。
 光る胎盤画像を見て、「『良いES細胞』は、胎盤の一部に分化できる」と指摘した研究者はいても(2014223日のニコニコ動画での竹内氏主宰の「オールアバウト・サイエンスジャパン」提供番組での中武悠樹氏)―須田氏著書p46-47による)、卵黄嚢だろうといった研究者はいないわけですから、誰しも驚きの調査委の結論でしょう。
 若山氏自身、後に、「キメリズムの高いES細胞」の可能性に言及してはいますから、あくまで胎盤についての話をしているつもりが、そうではなく卵黄嚢だとは思いもしなかったのではないでしょうか。
 
※ 桂調査委は、若山氏が撮影したオリジナル画像を改めてみて、このように誤同定した可能性大としていますが、その実際の判断根拠は極めて薄弱であることは、桂委員長が記者会見で述べた発言(「疑わしいという研究者もいる。疑わしいという言い方だが・・・」)からわかることは既にご紹介した通りです。
 
第二は、保存されていた画像が数千枚に上り、一連の投稿や差替え、論文構成の変更等でてんやわんやだった様子がうかがえます。このインタビューで言及している画像は、論文2の胎盤の蛍光画像の2枚が極めて類似しているという問題指摘に関する話ですが、論文1の捏造認定された学位論文画像の「使い回し」の件の判断の上でも、背景として示唆的な話だと感じます。
第一次不正調査委は、データ管理が杜撰だとし、間違っても構わないという「未必の故意」だとして捏造認定するという、驚天動地の論理で不正だと断じました。こんな論理がまかり通るならば、飲酒運転もわき見運転も、結果として死亡事故を起こしたならば、業務上「過失」致死ではなく殺人罪が適用されることになってしまいます。STAP論文の問題を受けて、文科省ガイドラインが、重過失も不正扱いすることになりましたが、第一次調査委は、重過失も飛び越えて、未必の故意ということで故意認定しているのですから、ひどいものです。「資料管理が杜撰」と部外者が指弾するのは簡単ですが、若山氏が言及しているような刻々変化する状況下で、数千枚の保存画像の中から、誰であっても間違いないようにできるものでしょうか・・・。いずれにしても、間違いはあったはならないわけですが、だからといって、世間に指摘される前に自ら気が付いて差し替えたという状況もある中で、強引に未必の故意論で、故意による不正認定に持って行くなど、そちらのほうが、よほど解釈、規定適用の不正というものだと感じます。
 
第三は、切り貼りに対する擁護論。ネイチャー誌から小保方氏が「線をいれればよかった」と言われたという話と共通した見方です。実験は行われ、真正データも存在し、データを有利な方向に導こうとするものではなく、合成前後で実験データの趣旨に変わりがあるわけでもないにも拘わらず、元データを物理的にいじったという一点だけで「改竄」と認定するという、実験データの偽造的操作という本来趣旨とはかけ離れた字面解釈をしたのが、第一次不正調査委でした。若山氏も、当時はこういう見方をしていたというのは、なかなか感慨深い?ものがあります。
 
 第四は、再現の一般的難しさについての指摘。再現するのはそう簡単ではなく、1年近くは再現できないのが当たり前だという認識です。これは自らのドリーの実質的再現となったクローンマウス成功時の経験に基づくものでしょうが、当時、科学者やマスコミが、「捏造でなければ、再現は簡単にできるだろう」と述べていた批判とは対極にある認識でしょう。
STAP細胞作製に当たっては、酸性処理が難しいと述べていますが、昨年の文藝春秋4月号のインタビューでも、よりビビッドに、STAP細胞作製の難しさを語っています。
 
「iPS細胞は作製できるまでに数週間を要しますが、STAP細胞は弱酸性の液体に二十五分浸したあと、一週間培養するだけ。一見、簡単なように見えますが、実際に再現は簡単ではなかつた。現時点で、世界中のどの研究者も実験結果を再現できていません。レシピは単純なのに、火加減、塩加減の難しい料理のようなものです。
作製法の簡便さでは、STAP細胞はiPS細胞に完全に負けていると思います。マイクロマニピュレーターも同じですが、手のさじ加減が大事。iPS細胞は、皮膚とか血液などの体細胞に遺伝子を入れて作りますが、遺伝子を入れるだけなら、素人がその日はじめて教わってもできる。一方、マイクロマニピュレーターで行う体外受精や核移植などは、覚えるのに数カ月かかります。
STAP細胞は、体細胞を弱酸性の液体に浸して作るので、小学生でもできそうですが、細胞の濃度を揃えるといったことや、洗浄は何回しなければならないといったコツがあります。遺伝子を入れるか入れないかは作業としてはっきりしていますが、コツが含まれる作業というのは、際限なく難しい場合がある。僕も理研から山梨大に引っ越す直前、STAP細胞の作り方を教わってやってみたら成功しましたが、山梨大に移ってからは、まだ成功していません。
コツの習得以外に、どの実験室でやるかによって成功率も変わってきます。昔、ハワイ大学からロックフェラー大学に移ったときも、ハワイ大学で何度も成功していた体細胞クローンマウスの作製に半年間、成功できなかった。自分自身が開発して世界でいちばんのテクニックを持っているにもかかわらず、うまくいかないことがある。
水ひとつとっても、どの会社の水でなければならないとか、すべての試薬について最適なものを使わないと、再現できない場合があるんです。」
 
このように、以下のような点を指摘して、再現の難しさを語っているわけです。
 ・レシピは単純でも、匙加減が難しい。
 ・細胞の濃度を揃えたり、洗浄を何回やらなければならないというコツがある。
 ・実験室が変われば成功率も変わってくる。
 ・水でさえどの会社の水かで違ってくる。試薬も最適なものを使わないと再現できない。
 
笹井氏が、昨年4月の会見で述べたSTAP細胞作製の段階ごとの難しさと併せ、簡単に再現できるというのが、如何にミスリードだったかをつくづく感じる説明です。
 
 いずれにしても、昨年の224日時点で、これらの理由を個別に挙げて、小保方氏の全面擁護をしていたということです。文藝春秋のインタビューは4月号掲載ですから、3月10日に発売として、締め切りがいつかわかりませんが、2月下旬なのでしょう。
 それが、39日~10日頃に至って、極めて唐突に見えた論文撤回呼び掛けに至るまでの「心境変化」の背景、理由は何だったのでしょうか?
 
                                         続く