理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【補足2】小保方氏の米国NIHサイトのQA転載は、本当に著作権侵害と言えるのか?(頭の体操)


序論の部分の、米国政府(NIH)サイト掲載の基礎的QAの利用についての、著作権侵害と認定している点については、議論のありうるところだと思いますので、少し述べてみたいと思います。
この部分は、米国法では、著作権がそもそもない政府著作物であり、完全なパブリックドメインとして、自由に利用ができるものとなっています(NHI自身も著作権なしである旨を認めています)。
 
 それを小保方氏が使ったことの是非が検討されているわけですが、本当に日本の著作権法上の「著作権」の侵害と断定してしまっていいのかどうかについては、やや疑問なしとしません。
 これは、必ずしも小保方氏を擁護するという視点だけではなく、著作権に関心を有する一人として、著作権法の解釈について問題提起となりうる面白い実例となっていると考えて、検討を加えるものです。
 
 ※ 著作権法の基礎として、経済的利益を確保する「著作権」と、人格的権利を保障する「著作者人格権」とがあることを、まず念頭に置いて下さい。

●この部分のいわゆる「コピペ」部分は、そのまま小保方氏主張の最終版にもそのまま残っています。


「一方、問題箇所①、②、③の 1、③の 2、③の 3 及び⑧については、小保方氏が最終的な完成版の博士論文であると主張し、最近になって小保方氏が行った修正等が含まれている可能性のある小保方氏主張論文にも存在する以上、小保方氏が真に提出しようとしていた博士論文にも、問題箇所①、②、③の 1、③の 2、③の3 及び⑧が存在していたと認定できる。」p44


そして、早大報告書では、米国政府機関であるNIHのサイトのQAの文章の使用を、「著作権侵害」と認定しています。
 
(a) 問題箇所①
・・・問題箇所①は、著作権侵害行為かつ創作者誤認惹起行為にあたる。そして、問題箇所①が存在する本件博士論文 1 は、博士論文の導入部分として、博士論文で取り上げるテーマを理解するために必要となる前提知識や、当該テーマに関連する過去の先人による研究成果等を記載するものであり、論文作成者の学識、問題意識等を示す重要な部分であること、依拠して作成されたものは約 4500 語と多量であること、それが占める割合は本件博士論文の第 1 章の約 80%、本件博士論文全体の約 20%、転載元①の約 80%と大きく(いずれも頁数ベース)、実質的同一性が極めて高いといえること等に照らすと、その記載の存在は、学位授与に一定程度の影響を与えたといえる。もっとも、その一方で、第 1 章は、博士論文の導入部分であって研究結果の記載に比べれば科学論文である本件博士論文中の重要性は、やや劣る。当該事情及び上記Ⅲ.2.(4)b.の事情等に照らせば、問題箇所①は、学位授与に一定程度の影響を与えたとはいえるが、重大な影響を与えたとまではいえず、問題箇所①と学位授与との間に因果関係があったとはいえない。」p53
 
(a) 著作権侵害行為について
問題箇所①に関しては、以下の事実が認められる。
i. 転載元①(別紙転載元一覧の①記載のもの。以下「転載元①」という。)の内容によると、転載元①は著作物性を有するといえる11
ii. 別紙類似性一覧の①の記載によると、問題箇所①と転載元①との間の実質的同一性は顕著である。
iii. 問題箇所①と転載元①との実質的同一性が顕著である上、本調査において、小保方氏は「ご指摘の文章12を参考にして記述をしました。」と述べており、問題箇所①は、転載元①に依拠して作成されたと認定できる。
iv. NIH の担当者の供述及び小保方氏の供述によると、転載元①の著作権者は米国政府(の機関)であること、及び同機関は転載元①の使用につき小保方氏に許諾を与えていないことを認定できる。
v. 引用(著作権法 32 条)その他、著作権法上、適法とされる要件をみたすことを伺わせる証拠はない。これらの事実に照らすと、小保方氏が問題箇所①を本件博士論文に記載した行為は、NIH が転載元①に対し有する複製権(著作権法 21 条)を侵害するものといえる。」(P1112
 
 そしてこのp11-12の部分の注釈として、次の2点が記載されています。


「<注釈>
11なお、NIH の担当者の供述によると、転載元①の著作者は米国連邦政府の機関である NIH であるところ、米国連邦著作権法によれば、NIH は転載元①について著作権法の保護を享受できず、著作権もないとする考え方もありうる。しかし、本件博士論文は我が国で作成されたものであるから、著作権の享有主体性の判断の準拠法は日本法であり、米国連邦著作権法 105 条は適用されず、NIH が転載元①の著作権を有すると解すことができる(田村善之「著作権法概説(第 2 版)」574 頁注 3、加戸守行「著作権法逐条講義(6訂新版)」425 頁参照。)。
 
13 著作権法上、他人の著作権の複製を適法化する権利制限条項のうち本件に関係しうるものは、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内での引用(著作権法 32 条第 1 項)」、「学校その他の教育機関における複製等(著作権法 35 条)」がある。なお、「学校その他の教育機関における複製等(著作権法 35 条)」とは、「授業の過程における使用に供することを目的とする場合等」とされており、博士論文の執筆は、それに該当しない。」
 
●しかしながら、報告書では言及されていない事項で、検討を要すべき点として、以下の点があります。
 
万国著作権条約及びベルヌ条約において、内国民待遇と相互主義が規定されていること。
②第32条2項では、国、地方公共団体等の一般向け資料の転載が自由にできる旨、規定されていること。
 
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
 
著作者人格権の適用についても議論があること。
 
 
●以下、順次検討していきます。
 
【論点1】 米国政府機関のQAは、米国では著作権がない以上、相互主義により、我が国でも自由に使えるということはないのか?
 
 問題のQAについて、米国NIH著作権者であることは、注釈の「11」にある通りです。ただ、そこに書いてある通り、米国では、このQAについて連邦著作権法の適用が認められていません(パブリックドメイン著作権がそもそもない)。
 
 また、米国著作権法では、「フェアユース」の考え方が原則となっていますから、外国政府の同様の著作物であっても利用許諾は不要と思われます。
 それであれば、日本でも保護されないのではないか、という議論もありうるわけですが、この点は、著作権に関する国際条約である万国著作権条約ベルヌ条約の適用関係をどう解するのかによって、考え方が異なるようです。
万国著作権条約では「相互主義」が定められていて、それを受けた「万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律」の第3条では、米国で保護対象でなければ、日本の著作権法の保護は受けないように見えます。


「第3
 万国条約の締約国の国民の発行されていない著作物又は万国条約の締約国で最初に発行された著作物で、その締約国の法令により保護を受ける著作物の種類に属しないものは、万国条約第二条の規定に基く著作権法による保護を受けないものとする。
 
 また、ベルヌ条約相互主義の適用の有無については、公式解釈は存在していないとのことです。
「なお、ベルヌ条約では、著作物の本国において著作権が発生しない場合について、加盟国で著作権の保護期間をゼロの著作物として相互主義の対象にしうるかについては、・・・・万国著作権条約の場合と異なり、公式の解釈が存在しない。」
 
ただ通説としては、ベルヌ条約の「内国民待遇」の原則が優先するとされているとのことで、その説に立てば、早大報告書の注釈の「11」にあるように、「保護国法主義」により日本でも保護されるということになるのでしょう。
 
このように、米国ではパブリックドメインで利用自由となっている場合の我が国での扱いについては、いろいろと複雑な要素が絡み合っていて、そう単純なものではないようだということは言えるかと思います。
 

【論点2】保護国法主義で保護されるとしても、「内国民待遇」の原則から、第322項により許諾不要なのではないか?
 
 早大報告書は、「外国著作物については日本の法令が準拠法だから日本の著作権法が適用されるのだ。そして、著作権の権利制限条項に該当するものは見当たらず、NIHに無許諾で使用しているので著作権侵害だ」という論法で見解をまとめています。
しかし、そこで問題となりうるのが、冒頭の①で紹介した第322項との関係です。
ベルヌ条約が適用されて、外国著作物については、「相互主義」ではなく、「内国民待遇」が優先するというのはいいのですが、それであれば、「国の著作物の権利制限」条項は、外国政府等著作物にも適用されるのではないのでしょうか?
 「著作権の権利制限条項に該当しない」との判断は誤っているように思います。
 
 著作権法322項では、上記の通り、国の一般向け著作物の場合には、著作権は発生していますが、許諾は不要で、自由に転載ができます。したがって、米国NIHの許諾をとっていないという理由を以てしては著作権侵害とは言えないことになり、少なくともその点からは、早大報告書の判断は誤りということではないかと思います。
 
 
【論点3】政府著作物の「転載」であれば、「引用」と異なり、無許諾の丸ごと使用も認められているのではないか? 
 
 そこで次に検討すべきは、「転載」についてです。ここで「転載」というのは、「引用」の要件は適用されないとされています。「引用」ですと、適正引用の要件というものがあって、分量のバランスやカギ括弧で引用箇所を明示する等が求められますが、第322項における国の著作物の「転載」ですと、(そのものを販売するものでない限り)「引用の要件を吟味することなく、自由に転載することができ」(三山裕三『著作権法詳説』)丸ごと使っても良いと、コンメンタールでも解釈されています。
そうなってくると、小保方氏による米国NIHサイトのQAを大量使用したとしても、「引用」の要件を満たす必要はなく、国一般向け著作物の「転載」に当たるものとして、自由に使えるという考え方も出てきます。
 
 
【論点4】著作者人格権にも抵触しないのではないか?
 
 次に問題となるのは、「著作権」(許諾を要する経済的権利)以外の、「著作者人格権」に抵触するものかどうか、という点です。この点は、早大報告書にはなぜか何も言及されていません。
著作者人格権は、氏名表示権と同一性保持権が主たるものです。個人の場合は著作者一身専属で一代限りですし、法人の場合には、これを侵害されても精神的苦痛はないから損害賠償を認める必要はないという東京地裁判決などがあるほか、学説においても、「著作権という財産的権利によっては回復しがたい重大な信用棄損的損害があった場合にのみ、行使を認めるべきではないか」という説もあるように、かなり制約を受けるものと解されています。
 
 加えて、米国の場合には、著作者人格権の保護は、著作権法としては行われていません。ウィキペディアには次のように書かれています。


「国際的には、アメリカはベルヌ条約に規定する著作者人格権の保護義務を遵守していないと評価されているのが現状である。実際、WTO協定の附属書として1994年に制定されたTRIPs協定91項は、協定の加盟国に対してベルヌ条約の遵守を義務づけているが、著作者人格権の保護について規定したベルヌ条約6条の2をわざわざ明文で除外している。」

 米国では、別途、不正競争防止法により、出所の混同行為を規制しているのでそれで実質的には同様のことが担保されてはいるようですが、しかしそれはあくまで公正競争法としての規制体系下の話であり、知財権という権利保護制度である著作権法としては保護がなされていないということになります。そういうことになると、相互主義の観点から、我が国著作権法は、米国の著作物について、著作者人格権を認める必要はないのではないか、という議論もありうると思いますが、そこは、【論点1】で説明の通り、通説によれば、内国民待遇と準拠法の保護国法主義により、著作者人格権の対象になるということなのかもしれません。
 
以上を踏まえて著作者人格権の適用について検討すると、早大報告書では、「問題箇所①と転載元①との実質的同一性が顕著である・・・」(p11)と認定しています(ただしこれは、著作権(複製権)の抵触に関する記述であり、人格権の見地からのものではありません)。「実質的同一性は顕著」という以上は、「同一性保持権」はクリアしていることになります。「引用」のように、適正引用の要件を満たす必要はありません。
もうひとつの「氏名表示権」については、「問題箇所①には、転載元①から転載された文章であることを示す記載がないだけでなく、それを伺わせる記載もない」(p11)としていますので、氏名表示権との関係で問題があるということかもしれません。しかし、他方で、著作権法193項では、
「3  著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。」
 と規定されていて、米国政府機関のNHIが創作者であることを主張する利益を害しているとは考えにくいとも考えられます。
 
なお、以上の話は、あくまで、初期草稿が正本となってしまった学位論文における話ですが、小保方氏が「真に提出する予定だったと主張する論文」においては、参考文献としては、各所に記載されているとのことです。
報告書では以下のように書かれています。
 
(a) 本件博士論文においては参考文献の番号が本文に個別的に記載されていないのに対し、小保方氏主張論文においては、それが記載されており、問題箇所①についても、各段落の末尾に転載元①に該当する文献番号が 13回記載されている44。」(p34
<注釈44
本文に番号が個別的に記載されているとはいえ、引用部分の特定がなされていない上、問題箇所①が約4500 語にわたる多量の転載行為であること等に鑑みると、転載元①に該当する文献番号が記載されているからといって、問題箇所①が、引用(著作権法 32 条)その他、著作権法上、適法とされる要件を充足することにはならない。そのため、小保方氏主張論文においても、著作権侵害行為であって、創作者誤認惹起行為である問題箇所①は、依然として存在するといえる。」
 
 以上から考えると、小保方氏のNIHサイトのQAの大量転載行為は、小保方氏主張の最終論文では著作者人格権の侵害とまでは言えないと思いますし、草稿段階の正本に関しても、侵害とまで断定するには抵抗を感じるところです。
 
【まとめ】
以上の通り、小保方氏のNIHサイトのQAの転載行為を、「著作権」「著作者人格権」ともに、侵害とまで断定するにはやや無理があるのではないか、少なくともかなり議論がありうるところではないか、と思います(もちろん、大量転載は褒められた話ではありませんが)。
上記議論をまとめると、次のようになります。
 
① 米国政府機関のNIHサイトのQAは、米国法では完全な著作権対象外であり、誰でも自由に使えるパブリックドメインの著作物である。ヒアリングしたNIH担当官も自身もそれは認めている。
② 米国で保護を受けない著作物について、我が国での扱いについては、条約に定める「相互主義」の観点から、保護を受けないという考え方もあるし公定解釈もないが、通説では、保護国法主義により、我が国でも保護されるとされている。早大報告書はその考えに立って、侵害を認定している。
 ③ しかし、ベルヌ条約による「内国民待遇」の原則がある以上、我が国でも著作権法322項の「国の一般向け著作物の権利例外」(=許諾不要で転載可)が、外国政府の同様の著作物にも適用されると思われる。このため、無許諾で使ったというだけでは、早大報告書が述べるような権利侵害にはならないはずである。
④ 国の一般向け著作物は、自由に「転載」ができるとされており、「引用」におけるような適正引用の要件は関係なく、丸ごと転載も認められている。「引用」のように、カギ括弧で明確に引用箇所を示したり、分量のバランスをとる必要もない。
⑤ 「転載」における出所の記載に関しては、著作者人格権の面(氏名表示権と同一性保持権)からも議論の対象となりうるが、法人における著作者人格権の適用はかなり制限的に解釈されていること、一定の場合の氏名表示不要規定もあることから、やはり「侵害」とまで断定するには議論がありうる(同一性保持権との関係は問題なし)。
⑥ 少なくとも、小保方氏が最終論文だと主張するものにおいては、当該節の参考文献としてNIHサイトが明記されており、著作権著作者人格権ともに侵害にはならないと考えられる(参考文献に記載がない草稿の正本論文では⑤の通り、微妙)。
 
●なお、以上はあくまで、「著作権侵害行為」に関しての話であり、「創作者誤認惹起行為」の視点からは、また別の話で問題なのでしょう。
 
「論文作成者の学識、問題意識等を示す重要な部分である」
「第 1 章は、博士論文の導入部分として、博士論文で取り上げるテーマを理解するために必要となる前提知識や、当該テーマに関連する過去の先人による研究成果等を記載するものである」
 
ということであれば、頁数ベースで「第1 章の約 80%、本件博士論文全体の約 20%、転載元①の約 80%と大きい」ことは、問題となりうるのかもしれません。
 
しかしながら、前回記事に書いたとおり、NIHのサイトの転載部分は、「幹細胞とは何か?」といったごく基礎的なイントロ的部分ですから、早大報告書の通り、小保方氏オリジナルの中核的研究・実験部分には何らの影響も与えるものでは全くない、ということは十分理解する必要があります。
 
 このようなイントロの基礎的解説話は、専門家向け論文であれば、別になくてもいいわけです。
 
ネット上の著作物の扱いについては、専門家でも誤解するときが少なからずあり、そういう面では専門知識に乏しい小保方氏が安易に使ってしまったということは、情状の余地は多分にあると思います。米国では政府著作物はパブリックドメインだというのは常識でしょうから、その感覚で自由に使ってしまった、ということなのでしょう(ちょっと、多すぎたことは確かですが・・・)。